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宇都宮地方裁判所 平成3年(わ)274号 判決 1993年12月21日

本店所在地

栃木県栃木市大宮町二〇五一番地一六

株式会社安田住宅

(代表取締役 安田稔)

本籍

栃木県栃木市大宮町二〇五一番地一六

住居

右同所

会社役員

安田稔

昭和一七年一〇月九日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官渡辺登出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社安田住宅を罰金一億円に、被告人安田稔を懲役二年に処する。

被告人安田稔に対し、未決勾留日数中五〇日をその刑に算入する。

訴訟費用は、被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社安田住宅(以下、「被告会社」ともいう。)は、栃木県栃木市大宮町二〇五一番地一六に本店を置き、不動産の売買及び仲介等を目的とする資本金一二〇〇万円(昭和六三年増資)の株式会社であり、被告人安田稔(以下、「被告人」ともいう。)は、同会社の代表取締役として、その業務全般を統括している者であるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、土地売却代金を過少に申告し、架空の測量・設計費、土地売買協力費等を計上するなどの方法により、所得を秘匿した上、

第一  昭和六一年二月一日から同六二年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三四一四万三七五九円(別紙一(一)修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年三月三一日、栃木県栃木市本町一七番七号所在の所轄栃木税務署において、同税務署長に対し、欠損金額が五五万六二四一円で、納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一三五四万五六〇〇円(別紙二(一)税額計算書参照)を免れ、

第二  ヨシバ建設株式会社代表取締役の吉羽宏四郎と共謀の上、

一  昭和六二年二月一日から同六三年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億一二八一万三六七一円、課税土地譲渡利益金額が四七六四万円、課税留保金額が零(別紙一(二)修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年三月二四日、前記栃木税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五二五九万五七七一円、課税土地譲渡利益金額が零、課税留保金額が八四五万四〇〇〇円であり、これに対する法人税額が二一二二万七一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額六〇二〇万九八〇〇円(別紙二(二)税額計算書参照)と右申告税額との差額三八九八万二七〇〇円を免れ、

二  昭和六三年二月一日から平成元年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九億六四八五万二四一八円(別紙一(三)修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年三月三一日、前記栃木税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一億〇九七六万三七五〇円であり、これに対する法人税額が四三五五万〇七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額四億〇二六五万七一〇〇円(別紙二(三)税額計算書参照)と右申告税額との差額三億五九一〇万六四〇〇を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  第三回公判調査中の被告人の供述部分

一  被告人の検察官に対する平成三年七月六日付け、同月二〇日付け、同年八月一日付け、同月一八日付け、同月二〇日付け(検三号)及び同月二一日付け(二通)各供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する平成元年一〇月一七日付け、同年一一月九日付け、同月二一日付け、平成二年二月二日付け及び同年三月七日付け各質問てん末書

一  安田一江(三通)、福田則雄、田中邦夫(八丁のもの・甲三一)、石島勇、澤田伸一(二通)、狐塚秀夫(三通)及び伏木克元の検察官に対する各供述調書

一  狐塚秀夫(三通)、中村仁(平成二年八月二二日付け)及び岡村誠の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  向井忠幸の大蔵事務官に対する質問てん末書の謄本

一  検察事務官作成の平成三年五月二四日付け、同年六月一七日付け、同月二九日付け(二通)、同年七月一八日付け(八丁のもの・甲一四一)、同月二二日付け及び同年八月二〇日付け各捜査報告書

一  平成元年一一月六日付け及び平成三年七月一一日付け(三一丁のもの・甲三九)各査察官報告書

一  大蔵事務官作成の売上高調査書

一  大蔵事務官作成の仕入高調査書

一  大蔵事務官作成の寄付金調査書

一  大蔵事務官作成の減価償却費調査書

一  大蔵事務官作成の受取利息調査書

一  大蔵事務官作成の道府県民税利子割額調査書

一  大蔵事務官作成の支払手数料調査書

一  大蔵事務官作成の有価証券売買益調査書

一  大蔵事務官作成の事業税認定損調査書

一  栃木税務署長作成の回答書(被告会社に関するもの・甲一一)

一  川口税務署長作成の回答書

一  平成三年六月一四日付け及び同年九月一〇日付け(高際一男作成のもの)各登記簿謄本

一  平成三年九月一〇日付け閉鎖登記簿謄本

判示第一の事実について

一  被告人の検察官に対する平成三年八月一一日付け供述調書

一  田中邦夫(五七丁のもの・甲三六)及び田中タイ子の検察官に対する各供述調書

一  諏訪晃、堀越慶子及び福田孝夫の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  平成三年九月一〇日付け(伊井明作成のもの)登記簿謄本

判示第二の一の事実について

一  被告人の検察官に対する平成三年七月一二日付け、同月一五日付け、同月一六日付け、同年八月二日付け、同月三日付け、同月六日付け、同月一一日付け、同月一二日付け、同月一五日付け(検二号)、同月一九日付け(二通)及び同月二〇日付け(検二号)各供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する平成元年一〇月一八日付け、同月一九日付け、同月二四日付け、同月二六日付け、同月二七日付け、同年一一月七日付け、平成二年二月九日付け、同月二三日付け及び同年六月二一日付け各質問てん末書

一  証人吉羽宏四郎の当公判廷における供述(第七、第八回公判期日におけるもの)

一  栃木久子、福田孝子(二通)、森田誠司(三通)、木村正一(二通)、保坂二郎、若林平吉、兼崎幸男、五十畑柳子(二通)、木野統男(二通)、上原宗彦、中村仁(平成三年二月二七日付け)、荒井勇(平成三年八月一二日付け)、田中邦夫(平成三年七月一九日付け)、中山昇(二通)、吉羽徹真(平成三年七月八日付け、同年八月三日付け、同月一九日付け)、吉羽慶祐及び吉羽基亘の検察官に対する各供述調書

一  比留間秀雄、吉羽宏四郎(平成三年一一月一二日付け、同月一三日付け、同月一四日付け、同月二六日付け、同月二七日付け、同年一二月四日付け、同月五日付け、同月一〇日付け、同月一一日付け、同月一四日付け、同月一五日付け、同月一六日付け、同月一七日付け、同月一八日付け)及び吉羽弘子の検察官に対する各供述調書の謄本

一  諏訪晃、堀越慶子、南荘司、金孝同、五十畑柳子、中村仁(平成二年一一月一九日付け)、榊原啓、野村博、村田明、風間秀夫、井戸政弘、古藤三郎、堀美樹、原忠男、三神千弘、佐野猛、大沼利博、井上恵吉、山崎広美、吉羽徹真(三通)、吉羽慶祐及び吉羽基亘に対する各質問てん末書

一  株式会社足利銀行宇都宮支店長作成の申述書

一  検察事務官作成の平成三年六月二一日付け及び同年八月二一日付け(二通)各捜査報告書

一  平成二年一一月九日付け(五通)、同月一九日付け、同月三〇日付け及び平成三年一月二八日付け各査察官報告書

一  平成三年一月一六日付け、同月一七日付け、同年五月二三日付け及び同年八月二七日付け各登記簿謄本

判示第二の二の事実について

一  被告人の検察官に対する平成三年七月一二日付け、同月一五日付け、同月一六日付け、同年八月二日付け、同月三日付け、同月四日付け、同月五日付け、同月六日付け、同月九日付け、同月一〇日付け、同月一二日付け、同月一三日付け、同月一四日付け、同月一五日付け(二通)、同月一六日付け、同月一七日付け、同月一九日付け(二通)及び同月二〇日付け(検一、二号)各供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する平成元年一〇月一八日付け、同月一九日付け、同月二〇日付け、同月二六日付け、同月二七日付け、同月三一日付け、同年一一月二日付け、同月七日付け、同年一二月一二日付け、同月一九日付け、平成二年二月九日付け、同月二三日付け、同年三月一六日付け、同年四月二七日付け及び同年六月二一日付け各質問てん末書

一  証人吉羽宏四郎(第七、第八回公判期日におけるもの)、同森戸巌及び同中野義一の当公判廷における各供述

一  第四、第五回公判調書中の証人吉羽徹真の供述部分

一  内海靖浩(三通)、栃木久子、福田孝子(二通)、森田誠司(三通)、森戸信勝、笠間盛一郎、稗田功(二通)、朝妻秀明、荒井誠、伊藤芳信、塩沢敏雄(二通)、高島良教(六通)、中野義一(四通)、秋山正好(三通)、秋山正昭(二通)、葵生川敏郎、矢尾板充、加藤誠一、若林清一、村川善吉、中村仁(二通)、熊倉利宏、荒井勇(二通)、根本浩(二通)、山本武、蒔田初美(四通)、蒔田孝夫、町田明(三通)、植村一、島田芳宏、出井正男、吉村昭夫、田中邦夫(平成三年七月一九日付け)、岡村誠(六通)、大森保(五通)、黒須一彦、渡辺偉、大森信子、田村豊次、若井毅、高橋令子、長塚昇(四通)、戸井田誠志、荒川洋(二通)、渡辺勇(二通)、宇賀神宏、岡静雄、中山昇(二通)、吉羽徹真(九通)、吉羽慶祐、吉羽基亘、渡辺弘(二通)、鈴木サダ、坂本鐵之助、大嶋茂(二通)、出井甲子男、出井保臣(二通)、大橋泰、坂本勝治(二通)、渡辺正義、森戸巌、落合孝明、落合忠彦(二通)、萩原昭夫、鈴木茂市、和賀井政雄、出井政代(二通)、増尾もと子、若林喜一郎、羽山俊一及び若林ツルの検察官に対する各供述調書

一  比留間秀雄、吉羽宏四郎(一六通)、及び吉羽弘子の検察官に対する各供述調書の謄本

一  内海靖浩、中村仁(平成二年一一月一九日付け)、高橋令子、七條信義、竹添正博、相原武志、田辺恭司、榊原啓、野村博、村田明、風間秀夫、井戸政弘、古藤三郎、堀美樹、原忠男、三神千弘、井上恵吉、山崎広美、吉羽徹真(三通)、吉羽慶祐、吉羽基亘、矢部英夫、増山武次、高岩好一、出井右一、高岩茂、萩原三郎、青木光雄、谷原忠己、麦倉正二、青木實、若林正、片柳正八、羽山和明、落合重夫、中田守三及び荻原タネの大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  検察官作成の平成三年一月一七日付け、同年六月二一日付け、同年七月一日付け、同年八月一七日付け及び同月二〇日付け各捜査報告書

一  検察事務官作成の平成三年三月四日付け(二通)、同月一二日付け、同年五月二一日付け、同月二四日付け、同年六月一八日付け(二四通)、同月二一日付け、同月二五日付け、同月二六日付け、同年七月四日付け、同月一五日付け、同月一八日付け(七丁のもの・甲一七七)、同月二七日付け、同年八月一日付け、同月九日付け、同月一三日付け、同月二一日付け(二通)及び平成四年一一月二六日付け各捜査報告書

一  平成二年一一月九日付け(五通)、同月一九日付け、同月三〇日付け、同年一二月一五日付け、平成三年一月二八日付け、同年二月一六日付け(二通)、同年七月一一日付け(一〇丁のもの・甲一〇)及び平成四年七月三日付け各査察官報告書

一  検察官作成の電話聴取書三通

一  検察事務官作成の電話聴取書二九通

一  平成三年一月一六日付け、同月一七日付け、同年五月二三日付け及び同年八月二七日付け登記簿謄本

一  被告人と森戸巌との間の対話録音テープ反訳書二通

一  被告人と中野義一との間の対話録音テープ反訳書

一  栃木県林務部森林土木課長、同県土木部都市計画課長及び同県農務部次長兼農政課長各作成の捜査関係事項照会回答書

(事実認定の補足説明)

本件において特徴的なことは、被告人は、捜査段階及び第一回公判期日(平成三年一〇月一日)においては、本件脱税の事実を争っていたが、第三回公判期日(同年一一月一四日)において、公訴事実に対する認否変更の申し出をし、公訴事実を認める旨の上申書を陳述(もっとも、右陳述に引き続いてなされた被告人質問における供述は、極めてあいまいなものであった。)したものの、それ以後の公判においては、再び、脱税の事実もしくは犯意を否認しており、また、弁護人においても、最終弁論で「事実関係については争いがない。」としながらも、脱税とされた主な勘定科目について損金性などを主張しているところにある。それで、以下主な争点につき、補足して説明することとする。

一  鴨川ゴルフ場について

被告会社は、昭和六三年一月期に千葉県鴨川市打墨地区のゴルフ場の測量・設計等を吉羽宏四郎(以下、「吉羽」ともいう。)が代表取締役のヨシバ建設株式会社(以下「ヨシバ建設」という。)に請け負わせて一五七〇万円を支払った旨公表しており、右支払いに関して、ヨシバ建設から被告会社宛てに昭和六二年四月五日付け五〇〇万円の領収証(「鴨川カントリーの測量設計代」名目)、同年六月三日付け右同額の領収証(「鴨川市打墨地区測量及び伐採及び設計代」名目)及び同年七月一〇日付け五七〇万円の領収証(「鴨川カントリー土質及び水質調査料〔ボーリング代〕」名目)が作成されている。しかしながら、関係各証拠によれば、同ゴルフ場についてヨシバ建設は株式会社ニッケン地盤開発にボーリングを三三〇万円で下請けに出した以外に作業を行っていないことが認められるから、被告人と吉羽は、共謀の上、少なくとも設計、測量及び伐採名目の各五〇〇万円の領収証分合計一〇〇〇万円について架空経費を計上したものと認められる。

なお、被告人は、公判廷において、右五〇〇万円の領収証二通は、いずれも吉羽が提供したゴルフ場開発等の情報に謝礼を支払ったことに関し作成されたものであると述べており、また、吉羽は、前記六月三日付け領収証は架空のものであると認めるものの、四月五日付けのものは、吉羽がゴルフ場開発の情報等を被告人に提供したことに対する謝礼などの意味でもらった金につき作成された領収証であると述べている。そこで、まず右六月三日付け領収証について検討するに、右領収証が吉羽ではなく被告人の筆跡によること、ヨシバ食品株式会社(代表取締役吉羽宏四郎)の会社印が押印されていることからして、ヨシバ建設の登録印(「株式会社ヨシバ」と刻された印)が押収された後である昭和六三年二月以降に作成されたことが明らかであること(なお、吉羽は、この点につき、第一七回公判における証言で、ヨシバ建設の印とヨシバ食品株式会社の印を押し間違えた可能性があるかのような供述をしているが、右供述は、ヨシバ食品株式会社の印は前記押収以降に使用した旨同人が捜査段階で一貫して述べており、第八回公判における証言でもこれに沿う供述をしていること、供述変更について納得できる理由がないことに照らして信用できない。)などの事情に照らすと、右領収証は架空のものと認められる。また、右いずれの領収証についても、吉羽が捜査段階において、「吉羽が被告人に紹介したゴルフ場の件はいずれも成功しなかったので、報酬はもらっていないし、また、報酬をもらえるような筋合いではない、ブローカーは話が決まっていくらという仕事であり話が決まらなければ報酬も請求できない。」旨述べていること(吉羽の平成三年一二月一〇日付け検察官に対する供述調書)や、真実被告人らが法廷で供述しているような支払いがなされていたならば、ことさらこれと異なる名目で領収証を作成しなければならない理由が窺えないこと、被告人は捜査段階において右のような供述を全くしておらず、吉羽から前記のような供述が出てからそれに沿うように供述を変えてきていることなどに照らすと、これらの領収証がゴルフ場開発の情報提供に対して支払われた金につき作成されたものであるという被告人らの供述は信用できず、仮にそのころ被告人から吉羽に対し、何らかの金が支払われていたのだとしても被告会社の経費性を窺わせるような事情は存しない。

二  宇都宮市南大通りの土地取引について

昭和六三年一月二一日、宇都宮市南大通り四丁目七番八号所在の土地が被告会社からヨシバ建設に三億四〇〇〇万円で売却され、同日右土地がさらにヨシバ建設からワールド商事株式会社(以下「ワールド商事」という。)に三億九五〇〇万円で売却された形となっている。

しかしながら、前掲各証拠によれば、吉羽は、右土地の売買交渉に全く関与しておらず、被告会社を売主、ワールド商事を買主とする前提で交渉が進み、売買代金が三億九五〇〇万円と決定されていたこと、ヨシバ建設がこの売買の中間に入る旨の話は、売買代金決定後正式契約を締結する直前になって被告人からワールド商事側に持ち出されたこと、ワールド商事側は吉羽について全く面識がなく、被告人はヨシバ建設を中間買主とすることで迷惑をかけない旨ワールド商事に念書を入れており、同社の土地買受代金も三億九五〇〇万円で変動がなかったこと、ヨシバ建設とワールド商事間の売買契約書作成に際して、必要事項の記入はもっぱら被告人らが行い、吉羽は黙ってそれに立ち会っているだけであったこと、登記も被告会社からワールド商事に直接移転していることなどの事実が認められるのであり、これらの事実によれば、右土地売買は真実は被告会社とワールド商事間のものであったにもかかわらず、被告人や吉羽は、被告会社の利益を圧縮する目的で、ヨシバ建設が売買契約の当事者になったとの架空の外形を作出したものと認められる。

ところで、被告人自身、ヨシバ建設が形式的な売買契約当事者にすぎないことを認めているものの、他方では、被告会社とワールド商事間の直接取引の形をとると高率の税金によって被告会社にほとんど利益が出ないことになるので、それなら借金で苦しんでいる吉羽のためヨシバ建設を間に入れて税金分を浮かし、吉羽に利益を与えようと考えたのであり、得られた利益の内三〇〇〇万円は吉羽に渡し、このうち二〇〇〇万円を吉羽に対する貸付金の返済として受け取った旨供述している。しかしながら、税金分を浮かして得た金の中から、自分の取り分より多い三〇〇〇万円もの大金をさして理由もないまま吉羽に贈与したという供述は到底信用しがたいところ、右売買の残代金が支払われた当日に、ヨシバ建設が右土地をワールド商事に売却して得た形となっている五五〇〇万円の利益にほぼ見合う四五〇〇万円が大和証券宇都宮支店に被告人の依頼によって他人の名義を使うなどして預け入れられていることにも照らすと、右五五〇〇万円の利益は、真実は被告会社に帰属する利益と認定されるのであり、被告人らが虚偽の外形を作出することによって右利益についての被告会社への課税を免れたことは明らかである。

また、仮に吉羽に対して右五五〇〇万円のうち三〇〇〇万円が渡されているとしても、被告人の供述によれば、前記売買により本来は被告会社が負担すべき税金を免れ、三〇〇〇万円のうち二〇〇〇万円を貸付金の返済として吉羽から受け取ることによって、被告人自らが利益を得たというのであるから、それは脱税の協力に対する報酬若しくは、被告会社の簿外資金を吉羽に対する被告人の個人的な贈与に充てたものと考えるべきであって、いずれにしても被告会社の経費とは到底認められない。

三  西方ゴルフ倶楽部開発についてのヨシバ建設の関与

検察官は、平成元年一月期において、西方ゴルフ倶楽部(以下「西方ゴルフ」という。)のゴルフ場用地取得作業につき被告会社からヨシバ建設に支払われたと公表されている一五億円のうち、実際に地上げ費用としてかかった八億一三〇〇万円余を除いた六億八六〇〇万円余は架空経費であると主張しており、これに対し、被告人は、公判廷において、右六億八六〇〇万円余の金銭のうち、約四億三〇〇〇万円余はヨシバ建設が行った地上げのため活動や国土利用計画法(以下「国土法」という。)違反に対する報酬として同社が取得し、その余の約二億五〇〇〇万円は被告会社に礼金として戻されて、うち約二億円は地権者や地元有力者に対する簿外経費の支払いに使用したと供述し、吉羽も、公判廷でこれに添った供述をしているので、以下この点について検討する。

1  地上げの報酬性について

前掲各証拠によれば、ヨシバ建設は、吉羽が以前経営していた株式会社ヨシバの商号を変更(昭和六一年四月一六日登記)して設立されたものであるが、事務所や従業員を持たず、建設や不動産取引の免許・資格もなく、商業帳簿も全く備えておらず、設立後一度も法人税の申告をしていない、いわゆるペーパーカンパニーであったこと、被告会社及び被告人にとって、このようなヨシバ建設若しくは吉羽に、事前協議終了後の段階において、西方ゴルフ場の地上げそのものを請負わす必要性も合理的な理由も全くないこと、同社の代表者である吉羽は、昭和六二年一二月の西方ゴルフ場の開発に関する関係官庁との事前協議終了以前には、何ら地上げ作業に従事していないし、その後もほとんど西方ゴルフ場開発予定地の現場に来たことはなく、地権者との地上げ交渉等に何ら関わっていないことが明らかである。したがって、同社若しくは吉羽が西方ゴルフ場用地の地上げを行ったという実態は全くなく、同社が被告会社から支払いを受けた金員の中に地上げの報酬が含まれていたとは認められない。

なお、本件においては、被告会社とヨシバ建設との間において、ヨシバ建設が西方ゴルフ場予定地の地上げを一八億八〇〇〇万円で請負う旨の昭和六三年一月一〇日付覚書が存在し、被告人は真実右のような契約が両社間にあったと供述するので付言するに、先にもみたとおりヨシバ建設が地上げを行ったという実態が全くないことや、吉羽自身、地上げの報酬についての具体的合意はなかったとも公判廷で述べていることからして、右覚書内容が実態とかけ離れたものであることは明らかである。そして、覚書に記載されてある地上げの履行期等が不自然であること(例えば、西方ゴルフ場開発の事前協議において同ゴルフ場造成工事の着工期限が昭和六四年一二月二〇日と定められていたにもかかわらず、右覚書では地上げ等の履行期が右着工期限後の昭和六四年一二月三〇日となっていることなど。)、覚書ではヨシバ建設の登録印でない「ヨシバ食品株式会社」名の印が使用されているが、これは昭和六三年二月にヨシバ建設の登録印が押収されて使用できない状態にあったからと認められること、フロッピーディスクに収容されている内容の分析により、他の多くの文書が作成日付よりもかなり後に作成されていると判明していること、右覚書と同日付けであって、かつ右覚書内容の前提をなす体裁となっている株式会社西方ゴルフ倶楽部と被告会社との間の西方ゴルフ場開発に関する覚書内容が、平成元年三月に千代田設計株式会社により作成された協議書内容と一部全く同じであることなどの事情に照らすと、右覚書は平成元年三月以降に作成された疑いが強く、被告会社とヨシバ建設間の真実の契約関係を示すものとは到底認められない。

2  国土法違反の報酬性について

被告人や吉羽らは、当初開発予定外であった土地が西方ゴルフ場開発に必要になったため、右土地を国土法の届出をしないまま買収し、地権者から登記を移転するに際して、吉羽が登記名義人となったことに対するヨシバ建設への報酬分が三、四億円程度あると供述する。

そこで検討するに、関係各証拠によれば、<1>吉羽は、「被告人から西方ゴルフのオーナーが代わり多くの儲けが出そうだという話が出たので、『経理の帳尻合わせのための領収証ならヨシバ建設で切るよ。しっかり儲けさせて下さい。』と被告人に言って、ヨシバ建設の架空領収証を利用してもらうことになった。」(吉羽の平成三年一二月一四日付検察官に対する供述調書)のであり、被告人、吉羽あるいは吉羽徹真においても、中山昇、秋山正昭及び高島良教等の知人ないし関係者に対し、吉羽が架空領収証作成によって脱税に協力する立場にあるような話をしていること、<2>吉羽は、架空領収証作成に関わるようになった後、国土法違反の土地取引をする必要が生じたのを聞いて、国土法違反の登記名義人になることに自ら進んで協力したが、この点について新たに報酬を要求してはおらず、その後も右報酬額について具体的な合意がなされた形跡は全くないこと、<3>国土法違反に関する県庁等との交渉はもっぱら被告人らが負いない、吉羽は全く関与していないし、吉羽は自己の名義で登記された土地がどの程度あるかも知らなかったこと、<4>国土法違反による登記はいずれ県に発覚することが必至であったが、吉羽は不動産取引に関する免許などを有していないため、仮に国土法違反に対する制裁を受けるとしても右制裁は大したものにはならないことが予想され、被告人自身「昭和六三年当時国土法の問題はさほどうるさく言っておらず、一般人に違反についてはせいぜい始末書程度であることを知っていた。」旨述べていること(被告人の平成三年七月二〇日付検察官に対する供述調書)、<5>現実にも吉羽は平成元年一月に始末書(文面は被告人が作成したもの)を提出するだけで済んでおり、それ以上の制裁を受けていないこと、<6>ところが、先にみたように国土法違反の報酬額が予め決められていた訳でないのに、被告人らの公判供述によれば、右のような極く軽微な処分で済んだ後の平成元年一月三一日以降になって、三億円余りという極めて多額の報酬がヨシバ建設に支払われた形になっていることが認められる。

これらの事実、殊に、国土法違反に対する制裁が極く軽微なものに過ぎないことやヨシバ建設に対する報酬が支払われたという時期に照らすと、吉羽の国土法違反協力に対する報酬が三、四億円程であるという被告人らの供述は、到底不自然・不合理で信用できないことは明らかであって、その程度の行為で多額の報酬を支払ったとは到底考えられないところである。そして、そもそも、先に見たとおり、吉羽が西方ゴルフ場開発に関わるようになったのは、被告会社の脱税に協力する目的からであったと認められること、脱税協力行為は、脱税の事実を隠すためにその後の税務調査や査察等に対する対応が必要である(現実に吉羽は、税務調査開始後約二年間にわたって行方をくらましている。)だけでなく、ゴルフ場開発に関わる巨額の脱税事件として被告人や吉羽が刑事訴追を受ける可能性がある重大な犯罪行為であるのに比して、国土法違反協力行為は、いずれ発覚することが予想されるものの、軽微な制裁で済むことが明らかであって、両行為における吉羽の役割の重要性が格段に異なること、国土法違反協力の報酬についての合意が具体的になされた形跡がないことなどの事情をも考慮すると、吉羽としてはいわば脱税協力のついでに国土法違反に協力したようなものであったと考えられ、これに対して独立して巨額な報酬を与えるような合意ないし認識が被告人らの間にあったとは認められない。

したがって、吉羽の国土法違反行為に対して何らかの報酬が支払われたとしても、それは吉羽が被告会社の脱税に協力したことに対して支払われた、いわゆる脱税協力報酬の一部というべきであるから、被告会社の損金にならないことは明らかである。

なお、吉羽は、被告人から真実四億円余りの報酬を得たのであり、そのうち二億円を向井忠幸に対する債務の返済に充てた旨公判廷で供述し、向井も公判廷でこれに沿う供述をしている。しかしながら、先にもみたとおり、吉羽が西方ゴルフに関して四億円余りもの報酬を得られるだけの情報が全く存在しないこと、右返済に関する同人等の供述はあいまいで、その内容がいかにも不自然不合理なものであり、また、吉羽は金の使途につき捜査段階と大きく異なる供述をしたことについて合理的説明ができていないことなどに照らすと、同人等の右供述は到底信用できない。

3  簿外経費の支払について

被告人は、公判廷において、ヨシバ建設から還流された金のうち約二億円を地権者や地元有力者に対するいわゆる裏金として使用したと供述している。

そこで、まず、地権者に対する裏金の支払いの有無について検討するに、前掲各証拠によれば、<1>西方ゴルフ場用地の地上げ価格については、売買契約書記載の取引額の他に立木補償費ないし立木伐採料名目で金銭の支払約束がなされ、右合計額が支払われた後に、契約書記載額分とそれ以外の支払分につき別々の領収証が発行されたこと、<2>地権者の中には、立木補償費ないし立木伐採料名目の金銭については税務申告をしないでよいと吉羽徹真らから言われた者がおり、実際に申告しなかったため、後に修正申告を余儀なくされた者もいたこと、<3>地上げ交渉を行い代金の支払いにも関与した秋山正好は、「大部分の地権者については国土法価格に立木補償費を上積みした価格で折合いがついたが、高額の支払いを要求した地権者に対しては立木伐採料の名目で支払いをした。」旨述べている(平成三年七月二二日付検察官に対する供述調書)だけで他にも裏金があったとは述べておらず、地権者らも立木補償費ないし立木伐採料名目以外に裏金の支払いを受けたりしたことはないと一致して供述していること、<4>昭和六三年秋から平成元年初めにかけて、地上げ交渉を行った中野や秋山らと被告人との間で報酬額について紛議が持ち上がった際、被告人は多額の報酬が出せない理由として予想外の裏金がかかったあるいはかかりそうだということを何ら述べておらず、その際報酬額決定の参考資料として被告会社にあった領収証等を基に作成された支払額一覧表にもそのような裏金の記載は全くないことが認められる。これらの事実によれば、立木補償費ないし立木伐採料名目以外に地権者に対する裏金の支払いはなかったと認めるに十分である。

なお、被告人は右客観的事情と明らかに矛盾する供述をしていながら、今後の事業に差し支えがあるなどということを理由に、裏金を支払ったという地権者の名前などを明らかにしようとせず、あいまいな供述に終始しているのであるが、同人の供述は先に認定したところに加え、以下のような事情により信用できない。すなわち、被告人の公判供述は、「二〇人ほどの地権者に平成元年三月以降裏金を支払った。地上げは前年の段階にできていたが、その時点では難航している他の地上げの関係もあって資金的なめどがはっきりしなかったため、裏金の資金ができてから支払うということにしたものである。地権者に対して、裏金を支払うという念書などは入れておらず、また領収証も取っていない。」という旨のものであるが、まず、被告会社に対しては昭和六二年暮以降約半年ほどの間に地上げ費用約一七億円がオーナーのダイヤモンドゴルフ株式会社から支払われており、また被告人の供述によれば同人はいわゆるタンス預金として一億円前後を有していたというのであるところ、地権者に支払われた土地代、立木補償費及び立木伐採料の合計額は最終的にも八億円余りだったのであるから、被告人が地権者との間で次々に地上げを完了させていた昭和六三年春から夏ころの間にはかなりの資金的余裕(単純に計算すれば約一〇億円)があったはずであり、何故に二億円程度の裏金を直ちに支払おうとせず、翌年まで支払いを猶予させたのか理解できない。資金的めどが立たなかったという点についても、被告会社が当時右ダイヤモンドゴルフから得ていた金額が巨額に上ることや、被告人が、他方では、地上げが大体できるという見通しがあったので、昭和六三年四、五月ころ、吉羽に四〇〇〇万円を貸したなどと地上げのめどにつき相矛盾する供述をしていること等に照らし、にわかに信用できない。また、立木補償費等では足りず、これ以外の裏金まで要求していたという地権者らが、登記名義の移転と引き換えではなしに、かつ念書等の作成も要求せずに(立木伐採料については、残代金支払時にこれを支払う旨の念書が作成されている。)翌年まで支払いを猶予したというのも極めて不自然である。以上の事情に加えて、そもそも、被告人自身捜査段階では公判廷におけるような供述をしておらず、その供述内容が多くの点で変転を重ねていることにも照らすと、地権者に対し立木補償費等以外にも裏金を支払ったという被告人の供述は極めて不自然、不合理であって、到底信用できない。

また、公務員を含む地元有力者に対して金を支払ったという供述についても、事前協議が終了して一年以上も経ち、地上げもほぼ終了した後になって支払いがなされたとされているなど不自然な点があるし、そもそも右供述が地権者に対する裏金支払いの供述と軌を一にして新たに被告人が述べ始めたものであることからすると、右は資金の出入りに関するつじつま合わせのための供述である疑いがあって、にわかに信用できず、他に有力者ないし公務員に対する裏金提供を窺わせるような具体的事情は存しない。

4  まとめ

本件においてヨシバ建設に支払われた形となった金がどのように使用されたかについて、吉羽も被告人も詳細を供述せず、その全容は明らかでないが、以上検討してきたところに照らすと、仮に吉羽になにがしかの金が支払われたとしても、それは脱税の協力に対する報酬と認められ、これを被告会社の損金と評価することはできないし、他に検察官が冒頭陳述で主張するもの以外に損金は認められない。

四  相田建設のコースレイアウトについて

被告会社は、平成元年一月期に西方ゴルフ場のコースレイアウト等を相田建設株式会社(以下「相田建設」という。)に請け負わせて一億五〇〇〇万円を支払った旨公表しており、これに沿う内容で、右両社間の昭和六三年一月二〇日付覚書が作成されている。ところで、被告人は、右覚書が事後的に作成されたもので、一億五〇〇〇万円に相当する作業を相田建設に請負わせてはいなかった旨認めるものの、同年九月ころ、岡村誠に対し、相田建設の仕事としてコースレイアウトを行なわせたのであり、その費用は、五〇〇〇万円程度と評価できる旨公判廷で供述し、岡村も捜査段階で、相田建設の仕事として同年九月ころから一二月ころまでの間コースレイアウトを行った旨供述している。

しかしながら、前掲各証拠によれば、他のゴルフ場でのコースレイアウト費用の見積り例を見るとその額はせいぜい数百万の程度であること、しかも岡村が作成したというレイアウト図面は、未だコース予定地が確定されない段階で、栃木県のゴルフ場開発の指導要綱を無視し、栃木県庁との関係各課との協議も全く行われないまま作成されたもので、到底本申請に用いることができない程度のものであること、岡村は同年九月ころから一二月ころまで他の仕事をするかたわら一人で図面を作成したというのであるが、その間右図面作成について特別に報酬を得たことはなく、ヤスダ建設コンサルタンツ株式会社(以下「ヤスダ建設コンサルタンツ」という。)から月四〇万円程度の給与を得ていただけであること、被告人自身、捜査段階ではコースレイアウト費用が一億円程度であるなどとと公判供述と全く異なる額を述べていることなどの事実が認められ、これらの事実によれば、レイアウト費用が五〇〇〇万円であるという被告人の供述が信用できないことは明らかである。

そして、前掲各証拠によれば、当時相田建設の役員をしていた蒔田孝夫や蒔田初美をはじめとして、西方ゴルフにつき事前協議後に簡単なレイアウトを行ったヤスダ建設コンサルタンツの中村仁、同社の下請けとして測量を行った東武測量及び大和測量の者、最終的に同意書取得作業やレイアウトを行った千代田設計の者並びに県の担当者のいずれもが、相田建設が西方ゴルフ場関係の仕事を請負ったと認識していないこと、岡村は、同月一二月に同社(同月より商号変更によりアイダ建設となった。)の役員となるまで同社と雇用ないし委任関係にあったわけではなく、むしろ当時岡村は栃木建設やヤスダ建設コンサルタンツの役員などとして活動していたこと、岡村は、被告人の指示によりレイアウト図面の作成に携わるようになり、これを作成していたという期間、ヤスダ建設コンサルタンツから給与を得ていただけであり、相田建設からは右図面作成の作業について何ら報酬等を得ていないこと、本申請に向けての同意書取得作業とレイアウト等は不可分のものであって、同じ会社に請負わせるのが一般的であること、被告人は、蒔田初美らに指示して、相田建設がコースレイアウト作業を行ったかのような内容虚偽の作業日報などを作成させていることなどの事実も認められるのであって、これらの事実によれば、仮に岡村が何がしかのコースレイアウトを行ったのだとしても、それは相田建設の業務として行われたものではないと認められる。なお、コースレイアウトを相田建設の仕事として行ったという岡村の供述は、右の諸事実と矛盾するだけでなく、さまざまな点であいまいであり、特にレイアウトの金額について被告人と歩調を合わせあいまいなことを述べていることなどに照らして信用できない。

なお、被告人及び弁護人は、右一億五〇〇〇万円がコースレイアウト料として支払われたものであるというほか、何ら損金性の主張をしていないところ、前掲各証拠によれば、被告人と相田建設の当時の経営者であった蒔田初美らとの間での話し合いに基づき、被告会社から相田建設に対し、昭和六三年八月から平成元年一月にかけて合計一億五〇〇〇万円が支払われて右金銭で相田建設の債務返済が行われ、他方、これと引き換えに、蒔田らの所有する不動産が、被告人個人の支払いもなく被告人に所有件移転されていることが認められ、この事実に前記認定の事実を総合すれば、被告会社が相田建設に支払った一億五〇〇〇万円は、被告人個人が右不動産を取得するために被告会社の資金を費消したものと評価すべきであるから、いずれにしても被告会社の損金とは認められない。

(法令の適用)

一  被告人安田稔

被告人安田稔の判示の各所為は、いずれも法人税法一五九条一項(判示第二の各所為につき、さらに刑法六〇条)に該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、犯罪の最も重い判示第二の二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役二年に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中五〇日を右刑に算入し、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により、被告人株式会社安田住宅と連帯して負担させることとする。

二  被告人株式会社安田住宅

被告人安田稔の判示各所為は、被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、法人税法一六四条一項により判示各罪につき同法一五九条一項の罰金に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により、各罪所定の罰金の合算額の範囲内で、被告会社を罰金一億円に処し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により、被告人安田稔と連帯して負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、被告会社の代表取締役である被告人安田稔が、ゴルフ場開発や土地取引につき、吉羽宏四郎の経営するペーパーカンパニーを介在させ、架空経費を計上したり売り上げ除外をするなどして、被告会社の脱税を行ったという事実である。

被告人は、経済的に困窮している吉羽ら関係者を利用し、報酬と引き替えに架空の領収証等を作成させたり、他人名義で開設した銀行口座等を経由するなどして、計画的に脱税を行っていたのであって、その結果、合計脱税額約四億一〇〇〇万円、税額のほ脱率八六・四パーセント(昭和六二年一月期一〇〇パーセント、昭和六三年一月期六四・七パーセント、平成元年一月期八九・一パーセント)という巨額かつ高率な脱税がなされたのであり、他の者を利用しながら自ら中心となって積極的に巨額の脱税を実現させたというその犯行態様は、誠に悪質というほかない。

しかも、被告人は、査察や捜査が開始されてからは、自ら不合理な弁解をするだけでなく、多数の関係者に働きかけて供述の変更を迫ったり、口裏を合わせるなどし、公判廷においても、一見犯行を認めるかのような態度をとりながら、結局のところ吉羽らと歩調を合わせた不自然不合理な弁解に終始するなど、真摯な反省の態度は見られず、犯行後の情状も甚だ悪質で、租税法秩序を軽視する態度が顕著である。

このような脱税行為は、単に国家の財政に損害を与えるのみならず、正直な納税者の不公平感を助長して国民の納税意欲を阻害し、申告納税制度の基礎を危うくさせるものである。特に、本件は、被告人が平成三年に実施された栃木県議会議員選挙に当選し、一旦は県議会議員という公職に就いたこともあって、社会に与えた影響は多大であったというべきである。

以上の事情に照らすと、被告人は到底実刑を免れることはできないというべきであって、被告会社において滞納国税額の一部として一億七五〇〇万円余りを納付していること、被告会社は、宅地建物取引主任者の免許を返上し、また、被告人は、県議会議員を辞職しただけでなく、本件犯行が広く報道され、本件犯行により事業の面で困難が生じるなど、被告会社及び被告人は、ともにそれなりに社会的制裁を受けていること、被告人には前科前歴がないことなど、被告人らにとって斟酌すべき事情を考慮に入れたとしても、被告人及び被告会社をそれぞれ主文記載の刑に処することが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 久保眞人 裁判官 樋口直 裁判官 小林宏司)

別紙一(一) 修正損益計算書

<省略>

別紙一(二) 修正損益計算書

<省略>

別紙一(三) 修正損益計算書

<省略>

別紙二(一) ほ脱税額計算書

<省略>

別紙二(二) ほ脱税額計算書

<省略>

別紙二(三) ほ脱税額計算書

<省略>

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